命名一考

藤野竜樹



 “ネコ”って音を聞いても、我々はその名の由来がすぐわかるものではない。でも、中国語では“猫(まお)”と発音するってことを聞くと、あぁなるほど、それは猫の鳴き声から来ているんだな。ということで合点がゆく。じゃあ“ネコ”は一体何から来ているんだろうかとあらためて疑問になる。“寝子”などという、当て字を無理矢理当てて語源を探る場合もあるようだ。コタツで丸くなる様を見れば確かにそうかもしれないと思うところであるが、あながち鳴き声説を捨て去れないところもある。というのも、犬の鳴き声が狂言の中に“びょうびょう”とされているように、古の人たちが聞いた動物の鳴き声は、必ずしも我々が今現在常識的と考えられている表記に近いとは言えないからである。
 でも“ネコ”は鳴き声じゃないだろ。と思う人には驚くべき例がある。中国産でかつ世界で最も有名な動物である“パンダ”だが、あれの命名は鳴き声から来ているからだ。これに対して驚く理由は二系統考えられる。一つは、「今まで聞いたことないけど、“パンダー!”って鳴くのか!」って思うタイプと、「聞いたことあるけど、あれは“パンダー!”って鳴いてたのか!」って思うタイプである。経済企画庁の調べでは99.5%が前者であることが判っているから、0.5%の後者の中にいるかもしれない「絶対そうは聞こえん!」という意見は少数意見として無視してもいいだろう。ということだから、“パンダは『パンダ!』って鳴く。”という命題は、十分信憑性に足るものだとみなして以降の話を続けていこう。
 パンダの例から明らかになるのは、“動物の名前は鳴き声で決定されることが多い。”ということだ。これについて最も顕著な例はポケモンであろう。ピカチュウは“ピカチュウ”と鳴く(頭の2文字で止めることはある)し、○○なんてなんか無理していると思うんだけど、やっぱり“○○”って鳴く。でもこうしたことは我々の身近でも起きる。“ブッポウソウ”がいい例だろう。(鳴いてるのは“コノハズク”なんだけど、それはこの際問題ではない。)
 筆者は自前でHPを持っているのであるが、そのコンテンツの一つに、オタクなセリフを集めるというものある。幸いにも協力者が多いので、今では読むのに1時間近くかかるほどの量に達している。まぁそれはいいのだけれど、協力者の中には、特撮系の怪人のセリフを送ってくださる方もいて、それがまた興味深いのだ。ちょっと羅列してみると、

ズゥーーカァーーッ!!   :カメバズーカ(デストロン怪人)
ソォ〜リィ〜、ソリィ〜!! :サソリトカゲス(ショッカー怪人)
ベア〜ベア〜。   :ベアーコンガー(ショッカー怪人)

という具合だ。全部を忠実に鳴いているわけではなく、また謝っているように思える鳴き声も無いわけではないが、確かに名前の中に鳴き声が入っている。我々はこれまで、こうした怪人の命名を子供向けだからという理由だけで馬鹿にしていたところがあるが、このように命名には我々の文化に流れているものと共通の思想があったのであり、だからこそ本稿のような学術的な論考にも耐え得るのである。
 今年の初めに筆者の居住する愛知県では、中部国際空港のある半田市とその周辺の町が合併しようとしたことがある。合併後の名前を“南セントレア市”としようとして、なんだかも批難ごうごうにあってしまい、住民投票で否決され、あまつさえ合併そのものがお釈迦になってしまったというお粗末なことになってしまったあの出来事だ。カタカナ入れたら年賀状書くとき格好悪いという住民の意見を無視したのは大きかったとは筆者も思う。だが、あの名前が上記空港の愛称であるセントレアという名前からだけ来ていると考えるのは浅薄な考えだとも思う。というのも、中部圏の住民は内輪だけ聞こえる声で鳴くことが多いからである。「遷都〜、遷都〜!」と。





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