少年漫画における戦闘力数値のインフレについて

木賃ふくよし(芸名)



 皆さんは、世界が数値で出来ていると意識したことはありますか?
 そう。アナログと呼ばれるものを突き詰めると、極端に小さい0と1の世界でしかないのである。
 つまり、デジタルの単位が極度に小さくなれば、デジタルはアナログを超えることが出来るはずなのです。だとするならば、この世に存在するほぼ全てのものは、数値で表すことが可能になる。
 映画「マトリックス」のように、世界も突き詰めれば0と1でのみ構成される世界となり得るのだ。
 いや、すでにその世界が色々な少年漫画の中で実現されている。
 例えばドラゴンボール。
 「戦闘力たったの5か・・・ゴミめ!」
 この台詞から、ドラゴンボール世界での強さは数値化された。
 ちなみに、主人公である孫悟空の戦闘力は当初、416であった。農夫が5であるから、まあ、農夫83人が寄ってたかれば、何とか悟空にも勝てる計算だ。
 これが、しばらくして強くなると悟空と同格だったピッコロの戦闘力は1120に到達。3倍だ。
 この後に登場する新しいライバルとなるベジータは戦闘力10000を超えているものと思われる。なお、この時の孫悟空は登場シーンで5000という数値を叩き出す。
 物語がナメック星に移ってからは、ケタは1万代がデフォルト。ギニュー隊長に至っては12万。この時の悟空は18万。ボスであるフリーザ様など、初期段階で53万。第一段階変身で100万を超えたという。
 最初のうちは10や20の戦闘力差が絶対だったのに、後になれば、1万や2万なんて屁でもない差になってしまう。
 ちょっと異様な跳ね上がり方だ。
 ここで考えて欲しいのだが、こんな数値の増え方が現実的とは思えない。
 上の段階へ行くほど僅差になるのが現実だ。世界中のアスリートは、わずか0.01秒を縮めるために死力を尽くしているのに、漫画の世界では、上に行くほど差が大きくなる。そんな馬鹿な。
 同じような事はキン肉マンにも言える。
 主人公であるキン肉マンに設定された95万パワー。ドラゴンボールよりも初期設定値が高めの設定だが、ラーメンマンの97万パワーなどを見ても、差はわずか2万である。
 インフレが起こるのはバッファローマンの1000万パワーから。悪魔将軍ではどうにか1500万パワー止まりだが、マンモスマンあたりになると7800万パワーと数倍に膨れ上がり、王位争奪編のリーダーだと1億パワーが普通。
 まあ、2000万パワーズのラーメンマンが、技の1000万パワーとか、ベアクローが二本で200万パワー、それに三倍の回転を加えれば400万×3で、バッファローマンを上回る1200万パワーだー!!とか、納得のいかないゆでたまご計算があるのは捨て置く事にしよう。
 似たようなところでは、聖闘士星矢の聖衣の青銅・白銀・黄金などもそれに当たる。
 この手の設定はかなり多く、色々な漫画に見受けられるが、基本的に主人公たちの数値やランクは低い。・・・と言うか、相手の数値が馬鹿高いのである。
 冷静に考えて、数値が上の相手に勝つのは、ゆでたまご計算でもしないと不可能なのですが、やはり最後は主人公が勝つ。
 分類によると3パターンに分けられる。


 1.低かった数字が、修行や、戦闘中の経験などにより上昇。
 2.低い数字が、怒りなどの感情、潜在能力の開放などにより上昇。
 3.強さは数字じゃない!(って、じゃあその数字の意味は?)


 こんな感じだ。解釈の違いはあるだろうが、1がドラゴンボール、2がキン肉マン、3が星矢であろうか。
 この数値の設定、あるいは数字の上昇は、少年漫画ならではの空想の産物なのだろうか?
 答えは否である。
 こういった数値の上昇し方を、強さのインフレと呼ぶが、インフレとは何か?

 インフレーション【inflation】とは、一般的物価水準が継続的に上昇(膨張)し続ける現象・・・つまり経済だ。
 つまり、戦闘力とは経済力に例えればわかりやすいのである。

 最初のうちは10や20の戦闘力差が絶対だったのに、後になれば、1万や2万なんて屁でもない差になってしまう・・・。子供の頃は、10円や20円の小遣い差が決定的な戦力差ではなかったか?
 それが、学年が進むたび、10円や20円ではどうにもならなくなる。
 中学生にもなれば、10円や20円の差は、500円ほどに跳ね上がっていたはずだ。わずか数年で少なく見積もって25倍。界王拳もビックリな数字である。
 高校生になって、今度はアルバイトでもはじめてみよう。
 その差は1000円から5000円ほどになるはずだ。中学から数えても2倍から10倍。幼少時からすれば250倍である。
 後はぼちぼちまで上昇するが、金持ちとの決定差が出始めたら、もうどうにも追いつけない。
 ここで、先ほどの3パターンを持ち出してみよう。
 3の強さは数字じゃない!
 これはあの、使い古された「人間はお金じゃないんだ!」というアレである。
 1はすなわち貯金。こつこつコツコツと貯めていった者が勝つ。後に跳ね上がるのは、利息の利率が上がっていたり、株だの、土地転がしだの財テクを利用しているものと思われる。
 2は、瞬間的に強くなって、また弱くなるパターンが多い。
 こんなことが可能なのか? いや、可能だ。
 ギャンブルである。
 有金を全部注ぎ込んで大穴に賭ければ、あっという間に何十倍の強さになれる。・・・いや、もちろん当たればの話だが。
 すぐに強さが元に戻るのは、ギャンブルで得た金はあぶく銭だと言う事だろう。
 となると、ひょっとすると、 ゆでたまご先生のとんでもない計算は、実は、詐欺とか借金とかそういうミラクルな手法なのかも知れない。
 ドラゴンボールにおける元気玉・・・「みんなの元気をちょっとだけオラに分けてくれ」は、元気ではなく現金という募金活動に他ならないのだ。
 何だか、友情・努力・勝利以外に色々と人生の教訓を教えてくれているような気がする。
 侮り難し、少年漫画。





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