透視能力者の視界と限界

渡辺ヤスヒロ



 透視能力と言う超能力がある。実際にあるかどうかはこの際置いておくとして超能力の一つのカテゴリに分類されるものだ。何が出来るかと言うとその名の示す通り通常見る事の出来ない遮蔽物の向こう側にあるものを見る能力である。背を向けたカードの反対側を読み取ることも可能だ。そんな透視能力者は一体何をどのように見ているのだろうか。

透視能力と言ってもピンからキリまで種類が考えられる。当人の望むままに世界のどこにあるどんなものでも自在に見ることが出来る能力者もいるかも知れない。場合によっては場所の分からないものや極小極大なもの、時間を超えて見ることも透視に含まれると言えなくもない。しかしここではもっとも一般的な(存在も不確かなものに一般的も何もない気がするが)限定された能力としよう。遮蔽物の反対側を見るだけの以下の2つのパターンの能力とする。
概念としては目が発達(かどうか分からないが)しており、通常見える波長より広く感知が可能な能力者。そのため赤外線やX線による透視のようなことが出来る。
一種のテレポートか空間歪曲により、目に入る光の発生源を変更可能な能力者。壁の向こうに目玉を飛ばしているのと同じように見ることが出来る。
両者の違いは暗い場所でも見ることが出来るかどうか、後ろにあるものが見えるかどうかであるが大まかには通常の人間の視界と同じと考えることが出来る。壁が透けて見える人と同じ視界を持ちたければ壁を壊せば良いだけのことなのだ。いくら壁の向こうが見える人であっても背中に張られた「Kick Me!」の張り紙を知ることは出来ないわけだ。
ではもう少し高い能力者の場合はどうだろうか。通常より視野が広い能力者、例えば自分の前後左右を全て同時に見ることが出来たとする。周りが同時に見えるというのは例えば魚眼レンズを覗いたようなものと考えがちだが別に歪んで見えているわけではない。彼らの視界は三次元的に視野全てを把握しているのだろう。潜水艦のオペレータにしたい位だ。本当に驚くべきは見えないものが見えることより、それらの画像情報を把握できる処理能力なのかも知れない。

そんな様々な透視能力だが、所詮人の力であることは言うまでもない。使い過ぎたり年老いたりすれば衰えていくのは当然の事として考えられる。つまり、結論として言えることは透視能力者が老眼になると困るということである。ついうっかりメガネのレンズを透視してしまっていたりすることもあり得るからだ。
「あ〜ミツ子さんや、メガネはどこにしまったかいのう?」
「いやですよ、おじいちゃん。ちゃんと掛けてるじゃないですか。」
透視しても老眼が補正できるわけではない。補正できるのは老眼鏡のレンズだけなのだ。これは老眼だけに止まらないのはもちろんの事だ。今の世の中6割以上の人がメガネを掛けている。近視遠視乱視等でメガネを掛けたりコンタクトレンズを着けたりしている人の方が多い位だったりする。するとどうだろう、メガネが有効に働かない可能性が高い目の悪い透視能力者ほど性質の悪いものは無いのではなかろうか。
ああ、透視能力なんて無くて良かったとメガネのレンズを拭きながら思うのであった。





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