今まで地球上に生まれた人間の総数

穂滝薫理



 いったい、これまでにどれだけの人間が地球上に生まれてきたのだろう?
 たとえば今年60億人いて、来年66億人いたからといって、この2年で合わせて126億人の人間が生まれてきたわけではない。また、この1年で6億人増えているからといって、6億人しか生まれていないのでもない。最近のデータによると、世界の出生率は約20%、死亡率は約10%だから、この1年間では60億×0.2=12億人生まれ、60億×0.1=6億人死に、プラスマイナスして6億人増えているということである。だから、この1年間では12億人の人間が生まれてきたことになる。ただし、生まれてきた子が無事成長するかどうかは関知しない。ともかく、一瞬でもこの世界に生まれてきた以上、その子は頭数に入れられる。
 こうして毎年の出生率によって生まれた人数を過去にさかのぼり、全部足したものが、これまでに生まれた人間の総計である。

 さて、世界の人口の推移を推定によって計算してみよう。参考にしたのは、生化学者であるアイザック・アシモフ博士(SF作家でもある)の推定と、厚生労働省の下にある国立社会保障・人口問題研究所なる機関の『人口統計資料集(2001/2002年版)』である。
 とりあえず、上記資料に従って1万年前の世界の人口を500万人とし、現在までの人口の推移をグラフ化してみた(図1)。1万年前のデータなどあるはずもないが、仮に出生率を22%、死亡率を21%とおいた。さらに、現代に近づくにつれてどちらもゆるかに減少するが、出生率よりも死亡率のほうの減少のしかたを多くしてみた。また、1700年代産業革命以降の、住環境の整備、農業生産の増大などにより急激な出生率の増加と、医学の進歩による死亡率の減少を考慮してある。
 このグラフは、もちろん正確ではないが、アシモフ博士と人口統計資料(2001/2002年版)の推定をなかなかうまく近似していると言えるだろう。

 グラフを見てすぐに気が付くのは、最近のほとんど垂直と言ってもいいような急激な人口の増加である。実際、1800年ごろの世界人口は8億人程度と推定され、1900年になってもせいぜい15億人だった。これでも、それ以前の1万年間のゆるやかな人口増加率に比べたら大変なものだが、次の100年間、つまり西暦2000年にはいっきに60億人を突破しているのである。恐ろしい増え方だ。現在の推定では、2050年ごろには90億人を超えるが、増加率はゆるやかに戻ると考えられている。


図1

 では、いよいよ、この1万年間にどのくらいの人間が生まれたのか計算してみよう。もちろん、先に見たように、単純に世界の人口を足すのではなく、出生率をかけて生まれた人数を1万年分足すのである。結果は、3279億3175万4805人。ご感想は?
 最初の9000年間のゆるやかな人口増加率を考えるとこの数字は意外と多いな、というのが私の感想である。ようするに、この9000年間は、生まれる人数もそれなりに多かったが、死亡する人数も多いため、全体としては人口の増え方は小さかったということだ。特に乳幼児死亡率は高かったに違いない。

 さて、500万人の人間が1万年前に突然現われたわけではない。アシモフ博士も、それ以前の人口の推定は行なっていないが、今回計算に使用したデータをそのまま過去にさかのぼらせれば、大まかな推定はできそうである。
 というワケで、200万年前まで計算してみた。200万年前というのは、人類(ホモ・サピエンス)の最古の化石の年代がこのあたりだろうと推定されている時代である。つまり、最初の人類が現われたのがこのころだろうと言われている。グラフは省略する。ただのきわめてゆるやかな1本の線(ほとんど直線)でしかないので。
 この計算では、10万年前の世界の人口が約350万人、100万年前が約4万人、200万年前の人口は、たった32人になってしまった。そんなワケはないと思うが、まぁ大まかな推定値だし、ありえないとも言えないだろう。
 これで今までに地球上に登場した人間の数を求める準備ができた。そして計算してみた。この200万年間に生まれた人間の総計は、5891億7865万9629人である! 大雑把に言って約6000億人。この中には、あなたや私はもちろん、ニュートンもジュリアス・シーザーも世界で最初に文字を書いた人も洞窟でマンモスの肉を食べていた人も含まれる。

 ところで、同じ計算のシステムを使えば、未来に登場する人間の数も推定できるだろう。未来の予測は、過去の推定よりはるかに難しいが、とりあえず、各国政府と人々の努力によって2050年以降の世界の人口はほぼ横ばいに近づくだろうとの予想のもとで計算してみる。すなわち、出生率も死亡率もほぼ10%ずつとみなす。これまでと同様、どちらもゆるやかに減少するが、今度は出生率の減少のしかたを多くしてみた。この結果、世界の人口は約94億人をピークに、2850年ごろから減少に転じることになる。(図2)
 ちなみに、実際に先進国では、いずれ人口は減少期に入るとされ、日本の場合は2010年ごろから人口が減り始めると推定されている。

図2

 最後に、なぜ私がこんなことを考え、そして計算しているかということを述べておきたい。机上理論学会誌2000年後期論文集において、私は『国民総背番号制に賛成します』という論文を書いた。この論文の中で、私は「日本だけでなく全世界の1人1人に番号をふりあてたい、でも20ケタ程度の番号では使い回さなくてはならないかもしれない」というようなことを書いた。そこで、実際に何年くらいで20ケタの番号がいっぱいになってしまうか確かめてみたかったのだ。
 現在の世界の人口は約63億人。今、全員に番号の割り当てを開始し、西暦3000年までに生まれてくる人に別々の番号を割り当てたとすると、番号はいくつまで必要なのか。すなわち、今後1000年間で、何人の人が地球上に生まれてくるのか。では、計算結果を発表しよう。西暦2000年から3000年までに生まれてくる人間の総計は、9372億8878万5960人。これに初期値の63億人を加えて、9435億8878万5960人。過去200万年間の人類総計をあっさり次の1000年間でやぶってしまうのには一種の恐怖を覚えるが、それはともかく、この全員に違う番号を割り当てるのに必要な数字は、10進数で12ケタである。
 全世界人類総背番号制は、20ケタもの番号を用意しておけば、今後1000年程度ではビクともしないことがわかった。
 よかった。

参考文献:『わが惑星、そは汝のもの』
 アイザック・アシモフ ハヤカワ文庫 1979年 680円
 『人口統計資料集(2001/2002年版)』 
国立社会保障・人口問題研究所 http://www.ipss.go.jp/



論文リストへ