こたつで睡眠不足解消

穂滝薫理



 夜、眠れない、という人はどれくらいいるのだろう。正確な統計はないが、かなりの人がyesと答えるのではないだろうか。単純にいつも寝不足気味な人から、中には夜でも昼でも眠れない、不眠症を訴える人までいるだろう。  不眠症が現代病なのどうか私は知らないが、おそらく蛍光灯出現以降の病気なのではないか。どこかで「眠れないのは夜が明るくなったからだ」という話を聞いたことがあるが、これは正しくもあり間違ってもいると思う。間違っているというのは、だって、暗くても眠れないんだもん。「夜が明るくなった」というのは、もちろん本当に夜でも空が昼のように明るいというわけではない。要するに、電灯(というか蛍光灯だと私は思うが)の普及によって、夜でも少なくとも昼間のように物が見える環境ができたということだ。昔なら夜が来ればもうまっ暗で何も見えないから眠るしかなかったのが、最近では明るいからいろいろできる。本も読めるし、仕事もできるし、歌いに行くこともできるし、机上理論の論文を書くことだってできる。つまり、無理して眠る必要がないのだ。そうして夜遅くまで起きている生活が続けば、やがて体が夜になっても眠くならないものになっていく。「夜が明るいから眠れない」が正しいというのは、そういうことだ。決して夜が明るくてまぶしくて眠れないのではない。  というワケで、私自身、昔からかなり寝つきが悪くてちょっとだけ悩んでいたりする。いや、別に悩んじゃいないが、翌朝早く起きなければいけないときなど困っていたりする。不眠症というワケではないので、夜は眠れないが、明け方になると眠れるのだ。もちろんなんとか眠れるように、部屋を暗くしたり、枕を変えたり、羊を数えたりと手をつくしてはいるのだが、効いたためしがない。  高校生のころ1年間だけ新聞配達をやっていたことがあるが、私がちゃんと夜眠れたのはその期間だけだったような気がする。なにしろ毎朝4時に起きて自転車こいで100件からの家に新聞を配らなくてはならないので、夜はきっちり10時には就寝、という具合だった。こう考えると、夜眠れないのはたんに習慣の問題なのかとも思える。ひとつめの結論としては、不眠症の人は新聞配達(朝刊)をやれ、というもの。ただしこれは結構つらい、ダイエットと同じでずっと続けなくてはいけないし、時間の自由がきかないし、冬は寒いし、犬はほえるし、新聞が重いので自転車がしょっちゅうパンクする。われわれが求めているのはもっと手軽な方法だ。その方法のひとつが睡眠薬である。ただやはりこれは薬なだけに危険も伴う。飲み続けると体に耐性ができて、薬の量が増え、やがて致死量を……というのもありがちな話だ。ほかになにかいい方法はないものか。  先日、やはり寝つきが悪いとふだんからこぼしている友人と電話をしていたときの会話。 私:寒くなったねー。 友人:こたつ出してないの? 私:もう、最近はエアコンだけだね。 友人:まぁエアコンでも十分あったかいし。 私:それに、こたつに入ると寝ちゃうしね。 二人:!  そう、こたつだ! 寝つきの悪い私でも、さすがにこたつだと寝てしまうのだ。では、単純にこたつで寝ればいいのかというと、そういうものでもないだろう。そもそもこたつは寝ることを想定していないため、大きな欠点が2つある。 1.せまい。本質的には、こたつは腰から下をあたためる道具である。そのため、大人が体をのばして肩まで入って寝ると足が反対側から飛び出す。また、背が低いので、横向きになると、なんと呼ぶのか知らないが中央の赤外線を出すアーモンド型の赤い電球をおおったアミアミに腰が当たって気になる。 2.細かな温度調節ができない。外から帰ってきてこたつに入ったばかりのときはよくても、寝るには熱すぎることがある。また、中央部分だけ熱を出すので足の先のほうまで熱が伝わりにくい。  これらの欠点は、容易に解決できることである。まず、サイズを畳くらいの横長にする。子供用の小さなものや、夫婦用のダブルサイズがあってもいいだろう。次に、アーモンド型の電球をやめて板状の電熱器かなにかを全面に貼り付ける。板状のものは一部のこたつではすでに実現されている。ポイントは全面に貼り付けることで、腰の部分だけでなく足先のほうまで暖めることが重要である。また、低温やけどを防ぐため、体が当たっていたら、そこの部分の電熱器を切るくらいの機能はあってしかるべきだ。そして、コンピューター制御の温度調節機能をつける。中に入った人が眠るまではそれなりの暖かさがあり、アルファ派かなにかを測定して、寝入ってしまったら温度を下げるとか、明け方には少しだけ温度を上げるとか快眠のための温度調節機能が欲しいところだ。あとは、めざまし時計を内蔵するとか、CDプレーヤーを搭載して心地よい音楽を流すとか、各メーカーの得意分野に応じた商売根性を出してもらえばよいだろう。  外国人を含むベッド派の人のために、ベッド型のこたつも必要だ。むしろベッド型が本命になるのではないだろうか。これからは、睡眠不足には、羽毛布団でもウォーターベッドでもなく、こたつベッド、これで決まりである。





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