MSパイロット最強列伝 群雄割拠編

木賃ふくよし(芸名)



  機動戦士ガンダム。それは、従来のロボット・アニメを覆す作品であった。
 この作品の良し悪しや好き嫌いはあるだろうが、生誕より二〇年余、今だ新作が作り続けられ、玩具が売れ続け、新旧のファンも多いロボット・アニメは、他にないと言っても過言ではない。
 全作を合わせると、とんでもない数の人物とロボット(モビル・スーツ)が登場し、ファンの間では、それに関する話題が尽きないようだ。例えば、1番カッコの良いガンダムはどれか? 1番面白かったガンダムはどれか?
 まぁ、この二つは大きく主観が入るので捨て置くとしても、1番強いガンダムはどれか?なんて話になると少し答えが見えてくる。どんな理屈をこねても、モビル・スーツは兵器なので、時代的に見て後発の方が圧倒的に有利だという事である。
 柔よく剛を制すなんて言葉があるが、これが兵器に当てはまるとは言い難い。あるいは科学力として数年の差なら、シチュエーションや操縦技量でどうにか出来る可能性はある。
 だが、それが数世代ともなると、どう足掻いても勝てない。
 パイロットがどちらも「操縦だけは出来るレベル」と仮定した場合、ガンダムとVガンダムで争わせたら、間違いなくVガンダムが勝利してしまう。
 Vガンダムにビームシールドなんか持たれたら、ガンダムの武器なんか通じる訳がないのである。

 では、ここで問題定義を変えよう。
 数多く登場する登場人物。ロボットではなく、人間である。
 この中で、最強のパイロットは誰か?という疑問だ。これは、ほんの数百年で人は変わらないと言う前提の下でなら、語りやすい。だが、ガンダムはそこにニュータイプと言う観念を持ち込んでしまった。このために、最強パイロットが誰であるかを声高に言う事が出来なくなってしまっているのだ。
 ボクシングで言うパウンドフォーパウンド。だが、敢えて言おう。
 MS最強パイロットが誰であるかを!
 ちなみに、ニュータイプ概念や時代、設定などを考慮するため、宇宙世紀以外のガンダムは除外させていただく。そうでもしないと、最強のパイロットはモビルファイターだけど東方不敗先生、マスターアジアになってしまうので。(最強MSパイロットではなく、MSパイロット内最強なので、少々意味が違う気もしますが)
 また、何処までが正史に沿っているかの判断が難しいので、アニメーション映像化されている作品のみに絞る。
 そこで全シリーズを通すと、やはり主役級、そのライバル級がそこに名を連ねる事になる。

 アムロ、シャア、カミーユ、シロッコ、ジェリド、ジュドー、マシュマー、ハマーン、ウッソ、クロノクル、ファラ、カテジナ、バーニィ、クリス、コウ、ガトー、シロー、シーブック・・・、

 オイオイ、まだこの中にあがってないのがいるぞ、と言う人もあるだろうが、何分と登場人物が多過ぎるので、かなり割愛させて頂いている。
 パイロットしては強かったと予測されるが1〜2話で消えた人なんかは除外した。うん。キリがないから。
 逆になんでコイツが入ってんのよ?ってのもいるが、メジャー度合いの問題です。つまり、ここでは出演回数や知名度も強さの基準と考えていただこう。

 で。まず、この中で最強ではありえなさそうなのをどけると、まずクロノクルであろう。どう考えてもパイロットとしてはファラやカテジナ以下、ウッソにも負けっ放しなので除外。指揮官としても作戦参謀としても負けっ放し人生です。姉さんとともにリストから消去。
 クリスも除外せざるを得ない。いくらニュータイプ専用をオールド・タイプのクリスが扱ったとは言え、最新機のガンダム相手にザクで刺し違えているようでは話にならない。アルとともにリストから除去。

 次に外れるのはコウだろうか。彼は優秀なパイロットではあるが、ガトーと対等になるために薬物を使用している。つまり、全員がドーピングしていた場合、彼は並以下の才能しか発揮できない計算だ。コウ、ニンジンとともにリストから消える。
 同様の理由でファラも消える事になる。彼女のパイロット才能は、宇宙漂流後にブレイクしている。全員が宇宙漂流でブレイクできると言う前提なら、彼女はさほど強くなかったと言えるだろう。・・・もっとも、宇宙漂流で全員がブレイクするかと言うと疑問も残る。テム・レイの件もあるので。・・・でも取りあえず、メッチェとともにリストより抹消。

 次に外れるのはカテジナである。彼女の場合はパイロットとしての腕前より、敵の心理を読んだ戦法や、そのための惜しみない奇行が凄かったのであって、純粋に強いとは言い難い。ウーイッグを目指し、リストから外れる。
 そして、この次はシャアだ。生きていたとは言え、ハマーンにバッチリ敗北を喫してる訳ですし、アムロには攻撃をかわされまくり、「私の射撃は正確な筈だ」と言い訳。さすがは出来損ないのニュータイプである。
 対等な力でアムロと決着を!なんて意味合いで戦っても、それで勝ってる雰囲気もない。シャアは、ララァとともにリストから削除。ちなみに、ララァは一度もMSには乗っていないので、初めからリストには載っていない。
 シャアが消えたと言う事は、シャアと張り合っていたアムロが消える事になる。落としたMSの数や落とした女の数ではトップクラスだと思われるが、あくまで強さを決める場所である。アクシズとともにリストから消失。

 残ったのは、カミーユ、シロッコ、ジェリド、ジュドー、マシュマー、ハマーン、ウッソ、バーニィ、ガトー、シロー、シーブック。
 これでも10人以上いる。この中から消えるのは、シロッコだろう。バイオセンサーなんて新装備を付けながら(それが原因と言う説もある)も、最終戦の時点では確実に最強とも言えなくなっていたZガンダムに敗北している。相手のカミーユには沢山の怨念がついていたと言う点では、かなり分も悪いが、木星帝国とともにリストより除外。
 次はマシュマーである。いくら相手がジュドーだったとは言え、初乗りパイロット相手にあのザマでは程度が知れる。バラとともにリストから散る。
 残るは、怨念のカミーユ。執念のジェリド。理不尽なジュドー。14歳当時には萌え萌えだったハマーン。ブーツアタックのウッソ。根性のバーニィ、歴戦のガトー、愛で強くなるシロー、分身術の使い手シーブック。
 ここで、シーブックが消える。比較対象が少ないので判断はつけにくいが、シーブックが強いとは言え、分身したのは彼の力ではない。作中ではニュータイプ的な力を多くは発揮しなかったため、そこまで能力が強いとは言えない。
 しかも、この時代になると操縦インターフェイスが優れ、操作が簡単になっている可能性が高いため、強かったのはシーブックではなくF91ガンダムだったと言える。シーブック、バグとともにリスト落ち。
 また、最終的な実績だけは凄いが、ニュータイプでもなければ、操縦能力が優れている雰囲気もない。根性だけを武器に、ザク1機で最新型ガンダムと刺し違えたバーニィもリストから弾かれる。クリスとともに。

 次に消えるのはガトーである。
 単純なMS操縦能力で言えば上位クラスなのだろうが、ニュータイプではないため、やはりニュータイプの敵を想定すると、単純に勝ち目がなさそうである。デラーズとともにリストから落選。

 そして、シロー。
 比較的リアルなストーリーや戦闘が標準であるガンダムのシリーズにて、愛と根性で戦った奇跡の人である。
 だが彼の場合、逆に言えば、愛なくしては戦えない。カップリングの相手がニナだったら戦えてないはずだ。よって、リストよりデリート。

 更に外れるのは、ウッソである。
 ウッソは類希なる強さを見せつけるが、度々窮地に陥り、その度に機体を破壊して勝利を収めている。
 それが戦法だと言えなくもないが、自ら、武器でもない機体をぶつけて勝利に導くと言う方法は、如何なものか。合理的だが、コストパフォーマンス面でリストから脱落。

 残るのは、カミーユ、ジェリド、ジュドー、ハマーンだ。
 この中でジェリドは、執念だけでカミーユを相手に戦ってきた最強のオールド・タイプ(途中でニュータイプに覚醒してると言う説もある)かも知れない。確かに、人生は負けっ放しだった。しかし、オールド・タイプであそこまで戦えた戦績を笑う人間はいないだろう。
 そして、ハマーン。どれほど強かったとは言え、やはり最後はジュドーに屈したのである。それは、ハニャーンさま14歳と呼ばれる時代が遺した甘さだったのかも知れない。そうなると結局、最強パイロットの座は二代目主役カミーユと三代目主役ジュドーで争われるのか。
 いや、我々は重大な人物を忘れている。
 以後、その人物についての話を進める事にしよう。
 その名は、ハヤト・コバヤシ。

 職業…ガンタンクパイロット
 性別…男
 年齢…15歳
 身長…150センチ
 職業…伍長
 生没…0064〜0088

 小柄ながらも、初代ガンダムにおいてホワイトベースを支えたクルーの一人。ちょっと僻みがちな柔道少年である。初代主人公であるアムロ・レイの隣人で、そのアムロに想いを寄せるフラウ・ボゥに焦がれていた。中立コロニーに暮らす民間人だったが、ジオン軍のザクの強襲により新設軍艦に避難、以後、現地徴用兵として、連邦軍のMSパイロットとなった。
 彼こそが、最強のパイロットなのである。

 ハァ? ハヤト? 凡人じゃねえか!? そう思ったあなたこそが凡人だと言えるだろう。
 まず、巨漢のリュウをホイホイと投げられる卓越した柔道センス。これだけでもパイロット内では最強クラスだ。しかし、ここはパイロット最強を決めるのではなく、最強パイロットを決める場所。
 無論、これに関しても彼は最強だった。
 彼の搭乗機、ガンタンク。ここが問題なのである。
 本来なら複座式であったガンタンクだが、リュウ・ホセイの死後は単座で操縦。これで一年戦争を戦い抜いたのである。これが最強パイロットでなくてなんだと言うのだろう。
 おわかりだろうか。どう考えても、性能が良いとは言えないガンタンクで、である。しかも、ガンダムのマグネット・コーティングでさえぶっつけ本番と言う状態の連邦軍。そんな連邦軍が、最初は複座だったガンタンクを無理矢理1人用に変えた所で、操縦インターフェイスがまともな筈などない。
 それも、昨日まで複座で砲座だけ動かしていたものを、いきなり今日から一人で動かせと言われて出来るものではない。家でセコセコと機械イジリして慣れていたアムロとは格が違う。
 真のニュータイプは、ここにいたのである。
 柔道少年から、いきなりのパイロット・デビュウである。
 ハヤトがニュータイプなどではありえないと言う説を主張する人もいるだろう。そう。違うのである。違うが、ニュータイプでもあるのだ。
 まずは、ニュータイプであると言う証拠を挙げよう。
 第13独立部隊、俗に言うホワイトベースのクルーだった事が、この証拠でもある。第13独立部隊は「ニュータイプ部隊」とも呼ばれていた。
 現に、初代の最終回において「聞こえましたか?」とアムロの心の声をキャッチしている点で、その資質がうかがえる。他のクルーもアムロの声を聞いているが、これは間違いなく、アムロの声を聞いた全員がニュータイプ、もしくはその資質を持っていたと言う事だ。
 そんな都合よくニュータイプばかりが集まるはずはない、という意見もあるだろうが、これは違う。歴代ガンダムを見ればわかるように、ニュータイプ同士は、敵味方を問わずに惹かれ合い、引かれ合うのだ。
 あるいは、ニュータイプがニュータイプの覚醒を促すのかも知れない。金持ちの所に金持ちが集まるのと似ているだろう。
 アムロのニュータイプ能力が優れていたために、一般人にもその聞こえたというものではない。その証拠が、ブライトのこの時のセリフである。
「ジオンの忘れ形見のセイラの方が我々よりよほどニュータイプに近いはずだ」
 つまり、完璧なニュータイプが理想だとするならば、ブライトは我々もその素質があると自覚している。中でもアムロとセイラの能力を高く買っていたのだろう。この時、子供達が最もアムロの声を聞いているが、純真な子供の方がその力を発揮しやすい事は歴代のガンダムを見てきた諸兄ならご存知の通りだ。
 おそらく、大人にはトトロが見えないのと同じ理論だと言える。子供から少年に成長したカツ・コバヤシ(当時ハウィン)があんなにも情けなかったのは、つまりそういう事だ。
 そして、ホワイト・ベースのクルーの多くがニュータイプ(もしくはその素質を持つ)だったとするなら、ハヤトがニュータイプでないはずはない。
 だが、ハヤトはニュータイプとしての能力を強く発揮する事はなかった。
 何故か。
 答えは簡単だ。
 ハヤトは、真のニュータイプなのだ。
 一年戦争時代では、ハッキリとした形を持たない「感受性の強さを実務に活かせる人」であったニュータイプは、グリプス戦役において「感受性の強さを超常的な力に換える人」に変化し、ネオジオン戦争において「何でも出来るスーパーマン」化する。人類の進化形態であるニュータイプもまた、進化していると言える。
 ハヤトはニュータイプとしてアムロが持て囃されている時代から、既に次の進化である、真のニュータイプに覚醒していたのだ。
 真のニュータイプ。それは、数世代経っても全人類がニュータイプに覚醒する事のない現実において、ニュータイプでない振りが出来て、人類にとけ込む事が出来る、全く新しいスタイルのニュータイプなのだ。
 一見、何でもない事なのだが、後でよくよく考えるととんでもない偉業を成し遂げている。これこそが真のニュータイプなのだ。その証拠は、再び、ガンタンクに関わる。
 RX−75ガンタンク
 長距離支援型モビルスーツ
 肩部長距離砲撃用キャノン砲2門
 腕部ポップミサイル砲2門
 ルナチタニウムの重装甲
 キャタピラ走行

 通常のモビルスーツには当然ついている、足がない。
 そう。
 「足が付いていない」
 「あんなの飾りです。偉い人にはそれがわからんのですよ」
 あの名セリフは、本当はハヤトのためにあったのである。
 汎用作業ロボットから発展したモビル・スーツ。これが人型をしているのは、大きく三つの理由がある。
 ・あらゆる局面に対応できる汎用型である事がひとつ。
 ・レーダー妨害物質ミノフスキー粒子の開発により、有視界戦闘や格闘戦が要求されたことがひとつ。
 ・もうひとつが、宇宙戦を想定したため、作用と反作用を利用して動く仕組みにしたためである。
 問題なのは三つ目。作用と反作用である。
 簡単に説明すると、人間が腕を振って歩いているのが、その「作用と反作用」な訳だが、全天方位から攻撃される宇宙においては、その対応能力が要求される。
 ここで、全方位に推力や攻撃力を付けずに、あらゆる展開の攻撃へと対応するため、人と同じ、手足を持つ形が、広角攻撃範囲や方向転換力を買われたのである。

 その中で、ジオングと違い、宇宙用の推力も持たないキャタピラのガンタンクで宇宙戦を戦い抜いたのは、奇跡でなければ、ハヤトの真のニュータイプ能力という他にない。
 彼はキャタピラを回し、腕を振り、砲座を動かす事で、宇宙空間における姿勢と方向転換を自在に制御したのである。
 死者のオーラを纏うとか、バイオセンサーで敵の動きを封じるとか、そんな程度が最強パイロットではない。
 あきらかに劣るモビルスーツ。
 あきらかに劣るインターフェイス。
 不利な戦況。
 物理的な無茶。
 それでも一年戦争を戦い抜いたハヤト・コバヤシ。ヤツこそが最強パイロットなのである。あん? 劇場版ではガンキャノンに乗ってた? そりゃそれで出世してるんだから褒めてやれ。

なお、ハヤト・コバヤシは戦後、カツ・レツ・キッカの三人を養子に迎えて(それを餌に、という説もある)想いを寄せていたフラウ・ボゥと結婚。
 アムロから妻を勝ち取っているのだから、本当の意味での勝利者はアムロではなくハヤトだと言える。
 軟禁され、その後もふらふらしていたアムロとは違い、人生の勝利者だ。
 戦争博物館の館長を務め、フラウには自身の子も出来、まさに愛に溢れた生活を掴み取った点で、悲劇ではない、理想的なニュータイプだったと言えよう。
 しかし、時代はそれを許さなかった。彼は地上ゲリラ、カラバのメンバーとなり、養子カツを戦場へ送りださねばならず、そして、戦死させてしまう。
 そして、ネオ・ジオンによるダブリンへのコロニー落としを巡る戦いの中において、自身も命を落とす事になる。宇宙世紀0088年。享年24歳であった。おそらく、次に宇宙世紀シリーズの物語が描かれるとすれば、それはカツなどではなく、フラウが産んだハヤトの子が主役に違いない。

 真の最強パイロットが誰であったかを知らしめるために、ガンタンクよ。彼は帰ってくるー!





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