ティッシュ配りを極めろ

穂滝薫理




 駅前などで、アルバイトのお兄さんやお姉さんたちがポケットティッシュを配っているのを見かけることが多くなった。これがいつごろから見られる日本の風景かはわからないが、ともかく、“日本の風景”と言えるほどに日常化していることは確かである。
 都市部の特徴のひとつは職業が細分化されていることである。いなかでは何もかも1人で、あるいはひとつのグループでこなさなければならないものも、都市では、仕事ごとにそれを専門とする人々がいる。たとえば食事ひとつとっても、料理ごとに細かい専門店が存在し、その中でも料理する人、接客する人、経理を担当する人などと仕事内容が細かく分かれている。専門家した仕事をとことん突き詰めた人が“職人”と呼ばれる人々である。
 そういう状況の中で、駅前で道行く人々にティッシュを配るだけ、という仕事をしている人たちがいるのである。しかし、彼/彼女らは、明るいとかムスっとしてるとかの違いはあるものの誰もみな一様に機械的だ。おそらく、配るべきティッシュのノルマのようなものがあるのだろう。一度に2つも3つも渡している人もいる。なんだか、自分の担当分のティッシュさえ配ってしまえばオッケー、みたいな感じの雰囲気なのだ。もっとティッシュ配りに誇りを持ち、日本一のティッシュ配りを目指す若者はいないのだろうか?
 しかし、ティッシュ配りを極めると言ったって具体的にどうすればいいのだろうか。と考えているときに目にとまったのが、同じく駅前にいるギター弾きおよび大道芸のお兄さんたちである。これはイケるのではないだろうか。すなわち、“ティッシュ配りを芸にする”のである。

 単純なところでは、ギターをかき鳴らし歌を歌いながらティッシュを配るとか、ポケットティッシュをお手玉のように操りながら配るとか。
 当学会の会員でもある加藤邦道氏のホームページで、ジャグリングのワザが紹介されているので、参考にしてみてはいかがだろう。
 Going One Way   http://homepage2.nifty.com/~kato/
 そうして、軽快なトークを聞かせつつ、ティッシュを配るのである。道の前に帽子でもひっくり返して置いておけば、ノルマも果たせるし、芸を見てくれた人からのチップという形で副収入もある。まさに一石二鳥というやつである。

 ティッシュ芸にはどんなものがあるだろうか。若いティッシュ配り芸人を目指す人のための参考になればと思い、いくつか考えてみた。
●ティッシュマジック
 ティッシュを使った手品を見せ、あなたもこのティッシュをもらえば、宴会とかでこんな芸ができますよ、と思わせる。これは、地下道などで、意のままに踊る人形を売っている人たちからヒントを得た。
●ティッシュの歌
 ティッシュはすばらしい。みんなもらうべきだ。というような歌詞の歌を歌って、道行く人をその気にさせる。言うまでもなく、路上音楽家がヒント。
●ティッシュ絵描き
 ティッシュに絵を描き、ただで配る。似顔絵を描いて配るというのもいい手だ。
●ティッシュのたたき売り
 もちろん、キメの言葉は「持ってけドロボー、無料だ!」
●ティッシュ大道芸
 ティッシュは軽いため、お手玉にするのが難しい。10枚くらい同時にお手玉できれば拍手喝采間違いなし。ティッシュ大道芸は、ほかにもいろいろワザが作れそうだ。以下にワザの名前のみを記す。ぜひものにしていただきたい。同時100人配り、回転配り、手裏剣、トランプディーラー、デコピン、しのばせ、かんざし、かみそりシュート、白鳥の舞。

 ついでながら、ティッシュ配り以外にも、極めれば芸になりそうな職業がある。
●交通調査
 寒空の下、道行く人々の数をかぞえている人々がいる。エンターテイナーならば、自ら人を呼び込むほどのワザが欲しい。
●募金
 ただ箱を抱えて「募金に協力お願いしまーす」というだけではあまりに芸がないではないか。
●選挙の街頭演説
 ただ、うるさいだけの演説はもううんざりだ。
●あなたの幸福を祈らせてくださいの人
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