レディ・メイドかき氷の可能性とその展望

岡田秀則



<はじめに>
 この研究は1986年夏に行われながら現在に到るまで発表の機会を見付けられずにいたものである。これまで文書化されていなかったため、以下の報告は筆者の曖昧な記憶によるところが大きいことをお断りしておく。この「レディ・メイドかき氷」という語は筆者の造語であり未だ一般には流布していないが、定義としては普通の水道などの水を利用せずに、市販されている清涼飲料水などの液体を直接冷凍庫で凍らせたものを原料にしたかき氷のことである。たとえ「レディ・メイド」とは言ってもマルセル・デュシャン的な実用性の戦略的放棄には全く与せず、ひたすら夏の味覚における実利を目的としたものであることも予めお断りしておくべきだろう。実験としての精密さを要求してはいけないことも御承知していただけるだろう。

<報告>
 方法としては、購入した何らかの液体を一般のキューブ氷用製氷皿に入れた後、家庭用冷蔵庫のフリーザーの中で凍らせ、それを市販されている手動(手回し式)の「かき氷機」にかけて砕氷するという方式を採用した。というのは、この研究報告を何らかの形で知ることとなった人々にとっても反復可能・展開可能な形態であることが望ましいという意見からである。なお、研究の結果はそれぞれ研究チームによって消費された。

A) 100%オレンジジュース (農協)
 これが最初の試みであった(この発想は雷の一撃のように筆者を突然襲った)。製氷の段階において、極めて均質なオレンジ氷が作られることが判明した。従って、口の中に入れる含み氷としても十分に使用可能である。砕氷の手応えについても、かなり一般氷に類似した硬さを保持しているという感触を得た。制作物の評判はすこぶる上々であったが、ただ一般氷に比べて融解が多少速いようだ。しかしこれは大方の「レディ・メイド」の特徴と諦めることになろう。

B) 20%オレンジジュース (不明)
 キューブ状の段階で口に入れてみて、糖分がかたまっている部分とそうでない部分が判別可能である。見た目ではピンとこない。かき氷としてはそれなりのものができるが、含み氷としては問題が多い。結局、もともとの素材の差においてAの製作物には勝てないという至極当然の評判が続出した。しかし価格が安いのはメリットに違いない。

C) スポーツドリンク (NCAA 旧タイプ=黄色透明)
 まず製作物の味については、非常に素晴らしいの声が上がった(我がかき氷批評家連盟にはこの当時スポーツドリンク信仰はなかったものと信じる)。また融けにくいことが指摘された。塩分となるイオンを含有しているため凝固点降下によって氷点下かなりまで冷えているのではないかと囁かれていたが、これは実験で温度を計測するべきだろう(が誰がやるだろうか)。これが証明されるならば一方で製氷に時間がかかるという弱点も見えてくるというものだ。

D) シャービック (ハウス食品 メロン味)
 本来この食品は製氷の段階で食するものだが、敢えて機械にかけてみた。結果は悪夢のようなものとなった。シャーベット(と呼んでいいものかどうか)としての歯ざわり効果のために中に空気が入るなど柔らかみを持たせるように出来ているので、機械にかけるてみると瞬時に練り状のグチュグチュした得体の知れないものとなってしまう。機械に刃があるにが何の意味も持たない。しかも極めて融けやすい。これの食し方についてはハウス食品に素直に従うのが賢明というものだろう。

E) 市販の氷みつを水に溶かしたもの (明治屋 ハワイアンブルー味)
 最もかき氷の原点に正直にして最も空しさをそそる素材。普通のかき氷と大して変わらないに決まっているものをわざわざ待つというのはこれ程までに長く感じられるものなのかと思う。確かに美味しかったがそれが何だというんだ(研究者としてあるまじき怒り)。なお、ハワイアンブルー味は明治屋の蜜の中でも称賛すべき味である。

F) 麦茶 (不明 パック式)
 技術的にさしたる問題なくうまく行く。しかしジュースなどと異なり本来的に味が薄いものなので、かき氷化した場合にあまり味がしない。濃いめに作っておくのが正解であろう。それより困ったことは、まず食べた時にかき氷としての感動が薄いということの方であろう(尤もこの感動云々については今回扱うつもりはない)。生活の上での工夫としては麦茶製キューブ氷を麦茶の入ったコップに入れるとかいったことが考えられるが別にそんなことはどうでもいい。

<おわりに>
 なぜ、レディ・メイド「かき氷」なのか。一つには、いわゆる液体状での消費に比べて清涼感が大きいと考えられていること、それから匙ですくうという摂取形態による消費時間自体の拡大である。要するに貧乏根性なのだろう。
 なぜ、レディ・メイド「かき氷」なのか。氷みつの購入と比較して案外経済的メリットが大きくないこと、そして重要なのは
、かき氷自体の味覚の均質性が保たれていることである(一般かき氷における白とみつの色との2色性に審美的価値を見い出すことは可能だが、ここでは問わないこととする)。この味覚的均質性は、東日本的「みつの上に氷」方式ではおろか西日本・中部的「氷の上にみつ」方式でさえ解決できなかった問題だったのである。かき氷店の東西比較は別の機械に譲ろう。
 この報│を最大限に活用し、「レディ・メイドかき氷」を夏を乗り切るための最大の武器の一つにして頂きたい。
   1986年夏
 協力   : かき氷批評家連盟理事有志 (東京・大阪・福岡代表)
 研究場所 : 鹿児島市谷山地区



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