フルーツバスケットに勝つ方法

金上譲




 予め断っておきますが、これは「フルーツバスケットに勝つ方法」であって、「フルーツバスケットで勝つ方法」ではありません。どう違うのかと言いますと、後者がフルーツバスケットというゲームにおいて他のプレイヤーに勝つことを目的としたものであるのに対し、前者はフルーツバスケットというゲーム自体に勝つためのものなのです。もっと簡単に言えば「フルーツバスケットを10倍楽しむ方法」ということです。

 初めにルールの確認をしておきましょう。フルーツバスケットというのは、もともとはそのタイトル通り何種類かの果物の名前を使ったゲームで、果物名を各プレイヤーに1つずつ強制的に割り当てていました。そして鬼を1人決めて場の中央に立たせ、残りの全員は椅子に座って鬼の周りを囲むように円陣になります。ゲームが始まって例えば鬼が「りんご」と言ったとすると、「りんご」という名前を与えられたプレイヤー達は一斉に立ち上がり、今まで座っていたのとは違う席に向かって大移動します。この時当然鬼も席を取ろうとしますので、最も移動の遅れたプレイヤーの席はなくなって、その人が次の回の鬼になります。また例えば鬼が「フルーツバスケット」と言ったとすると、今度は場の全員が移動しなければなりません。とまあこんなことを何度か繰り返して、通算5回鬼になったら罰ゲームをやらされたりする訳です。
 この基本ルールが、いつの頃なのか知りませんが改良されました。各プレイヤーに果物名を与えることはやめて、鬼が個人個人の属性(服装や身体的特徴、プロフィールなど)を言うようになったのです。「りんご」の代わりに「腕時計をはめている人」「二重まぶたの人」「血液型がO型の人」といった表現が使われるようになりました。これだと本人しか知らないことも次々と登場しますので、全員が正確に自己申告するということがゲームを面白くする絶対条件になってきます。
 さて、フルーツバスケットでは主導権を握っているのは常に鬼です。ですから鬼の台詞如何でゲームが面白くも、またつまらなくもなります。鬼になった人がいつも「フルーツバスケット」(これだけは変わっていません)としか言わないとしたら、あるいは血液型や星座のことばかり言うとしたらどうでしょうか?ほぼ間違いなく場がしらけてしまうでしょう。
 では鬼はどんなことを言えばいいのでしょうか?ここでは鬼の取るべき戦略を、レベルの低い方から高い方へと順に見ていこうと思います。
 まずは軽く"なつかしネタ"からです。参加者全員が、あるいは一部の人達だけでも構いませんが「ああ懐かしい」と思わず言ってしまうようなネタなら労せずしてうけます。例えば「遠足のお菓子が200円分までだった人」という感じです。これと似たものに"内輪ネタ"というものがありますが、こちらは場を盛り上げるのには殆ど役に立たないことが経験的に分かっています。下手に使わない方が良いでしょう。
 次に"攪乱戦法"があります。鬼が「白いシャツを着てジーンズをはいている人を除く全ての8月生まれでない人」と言ったとしたら、果たして自分がそれに該当するのかどうかということを一瞬で判断することはできません。しかしこういった長い条件には大抵曖昧なところがあるので、深く考えられると困る、という難点はあります。
 "記憶テスト"というのもあります。「昨日卵を食べた人」「去年5回以上外泊した人」といったように全然覚えていない、あるいは思い出すのに時間がかかる過去の事例を持ち出す訳です。勿論誰も思い出せないようなことは言っても仕方ありません。
 "予測"あるいは"予想"というのは逆に未来の事例についてです。これは単にその人がどう考えているかということであって、それが真であるか偽であるかといったことは一切関係ありません。「明日晴れると思う人」「来年は巨人が優勝すると思う人」といった具合です。
 個人的に良く知っている人に対しては"狙い打ち"という技が使えます。つまり、その人のみが持った特性(「目の下にほくろのある人」「高校3年の夏休みに交通事故で足の骨を折って全治2か月だった人」など)を言うのです。これで立ち上がる人は1人だけで、しかも自分の席には座れませんから、鬼は楽々と席を取ることができます。ただしあまり親しくない人を狙い打ちすると、その人の自分に対する印象が悪くなるかも知れませんので、くれぐれも気を付けましょう。
 これが更に進むと"秘匿情報公開"になります。「人参の嫌いな人」「25m泳げない人」など、人に知られるとちょっと(かなり)恥ずかしいことを聞く訳です。この分野はエスカレートしやすいのでほどほどにしておきましょう。
 そして窮極の技"自殺"。鬼が、自分自身にしか当てはまらないことを言ってしまって呆然とする、というものです。それも、できれば参加者全員に「そんな奴はお前だけだよ」と思ってもらえるようなマニアックなことがいいでしょう。「『ミンキーモモ』を全話録画した人」「翻訳されているディックのSFを全て読んだ人」といった類のものです。
 これらの技を繰り返して使うと飽きられますので、当たり障りのない一般的な技を折り混ぜつつ、レベルの低い技から順に少しずつ使っていくのが効果的かと思います。

 一方、鬼以外のプレイヤーはどうすれば良いのでしょうか?
 鬼以外のプレイヤーの使える技は2つほどあります。その1つは"積極参加"で、鬼の出した条件を自分が満たしているかどうかが曖昧な時や分からない時などには、取り合えず立ってしまいましょう。大勢が移動した方が面白いですし、自分が鬼になるかも知れないというスリルも味わえて一石二鳥だからです。もし本当に鬼になってしまっても、その時はその時で前述のような様々な技を使えばいいという訳です。
 もう一つは"直径移動"です。これは、自分の席を立ったらそのまままっすぐ反対側にある座席を目指してダッシュするというものです。特に「フルーツバスケット」の号令がかかった時はみんなすぐ隣の席に移動しようとしますので、これを蹴散らす訳です。同様なことを考える仲間が3人もいれば、かなり場を乱すことができるでしょう。
 また、鬼以外のプレイヤーには、次回鬼になった時にどんなことを言うかを考えておく義務があります。鬼になってから考えていたのではそうそう面白い条件は出せないものですから。


 今後は以上のことに気を付けてゲームをすれば、フルーツバスケットも今まで以上に面白い遊びになると思います。また、これ以外に何か新しい技を開発したら御一報下さるととても嬉しく思います。



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